第1章 無像論

心の考察に取り掛かる前に、まず視覚と物の関係性について考察します。

便宜上、ここでは視覚的に存在するものは実在として扱います。もちろん錯覚や幻覚の類いはこの限りではありません。常識的に実在だと思われているものは触って確認しなくても実在だと判断するといった程度の意味だと解して下さい。

私が目指しているのは、視覚と物の関係性をより素朴に論じることです。

なぜなら科学的理論が実験によって証明されなければならないように、哲学的に論じられたものは日々の生活の中で証明されなければなりませんが、科学とは違い、哲学的理論が複雑であれば、それを実践することはほとんど不可能だからです。

第1章

第1節 像はフィルターではない

私の目の前には明らかに実物としての世界が広がっています。三次元空間の中に、色や形を持つ様々な物が存在している世界です。そして、少なくとも身体としての私はこの実物世界の住人として暮らしています。 これを疑うことはできないでしょう。 たとえそれ...
第1章

第2節 像を見ることはできない

前節で、実物世界は内省した途端に私秘的な像として振る舞うが、この像は実物世界の内在的原因であるということを考察しました。 しかし、普段の私たちはそのように捉えていません。像は外在的であり、今まさに自分の目の前にあるものだと考えています。 こ...
第1章

第3節 認識単独の像

これまで、実物世界は内省すれば像であるということを見てきました。しかし、もちろんそれだけでは不十分です。なぜなら、実物世界は単なる色の広がりではなく、形や奥行きを持っているからです。さらには、自分では見ることのできない背後の物も自分が見てい...
第1章

第4節 他者の像

視覚の話の中で、「私に見えている色が他の人に見えている色と同じであるかどうかを確かめる術はない」と言われることがあります。これは、つまり他者には他者の視覚が存在すると考えられているということです。 しかし、この前提は正しいでしょうか。 他者...